ボットによるマーケティング予算の搾取を阻止せよ
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マーケティングにおける不正には、分析の歪曲や広告、アフィリエイトおよびリードに絡む不正など、さまざまな種類があります。マーケティングの不正問題は、あらゆる業界のネットビジネスでますます深刻化しています。このような出来事がBuzzfeedで伝えられるようになったときは、すでに問題がかなり大きくなっていると考えて間違いありません。
調査会社のJuniper Researchによれば、2019年の予測として、インターネット、モバイルおよびアプリ内で広告を出稿する広告主が、マーケティング不正によって被る広告費の損害は、全世界で420億ドルにのぼると見積もっています。これは、2018年の350億ドルから21%の増加にあたります。マーケティング不正の急激な拡大は明白であり、至るところで企業の経営幹部にとって重大な関心事となっています。
まず、ボットが関係するマーケティング不正には、どのようなものがあるのかをみてみましょう。
分析の歪曲
ボットがウェブサイトを訪問する理由が、コンテンツのスクレイピングや入力フォームに対するスパム、ユーザーアカウントの乗っ取り、DDoS攻撃の実行など、どのような目的であっても、そのトラフィックは必ずウェブサイトのメトリクスに偏りを生じさせることになります。その結果、自身のマーケティング戦略が効果をあげているのかどうかをマーケターが判断しにくくなり、計画や意思決定の妨げとなります。
広告不正
広告不正は、ことによると、現代世界において被害額が2番目に大きい組織犯罪の形態かもしれません。過去20年間で、プログラマティックデジタル広告が大幅に成長しました。これにともない、不正利用者がシステムを悪用する機会も増え、媒体や広告主、仲介者をだますようになりました。さらに、デジタル広告のエコシステムは高度な自動化が進んでいる一方で効果的な規制がなく、不正利用者がシステムの抜け穴を悪用するのを防ぐ有効な安全策として、広く浸透している方法はありません。
次のグラフは、2018年第4四半期の弊社のEコマース顧客の総トラフィック量とボットによるトラフィック量を表しています。2018年のブラックフライデーウィークは、全体のトラフィック量がほぼ2倍に増える中、ボットのトラフィック量は平常時のおよそ10倍近くに膨れ上がっていたことがわかります。祭日のショッピングシーズンには、ボットによるトラフィックが急増し、これに呼応してスクレイピングやアカウント乗っ取り、入力フォームに対するスパム、広告不正を実行するボット攻撃が増加するのが普通です。
アフィリエイト不正
アフィリエイトマーケティングプログラムは、ブランドのプロモーションを行って顧客を獲得するアフィリエイトに対して報酬を支払う仕組みになっており、CPA(Cost Per Acquisition、顧客獲得単価)と呼ばれる指標を使います。不正利用者はボットを使い、アフィリエイトの報酬対象となるトラフィックをリダイレクトし、追跡クッキーでコンバージョンを記録することによって、本来のアフィリエイトから手数料報酬をかすめとります。
リード不正
リード不正には、次の2つの形態があります。
- 生身の人間が報酬と引き換えに広告をクリックしたり、ウェブフォームの記入と送信を行ったりするケース
- ボットが広告のクリックやフォームの送信、フォーラムに対するスパム投稿を実行し、リターゲティングで表示される広告を「見た」ようにみせかける(プレミアムサイトの訪問によって生成されるcookieの痕跡を作る)ケース
以下のグラフは、広告不正を抑制する弊社のソリューションをご利用いただいている顧客数社のトラフィックを合算し、2018年11月の推移を示しています。青色の線は全体のトラフィックの推移、赤色の線はボットの総トラフィックを示しています。感謝祭の直前に全体のトラフィックとボットのトラフィックがどちらも増加し、サイバーマンデーまで高い水準を保っていることがわかります。ここ数年、弊社の顧客ベース全体で一貫した傾向となっています。
ブラックフライデーとサイバーマンデーが間近になると、企業は主力メディアのポータルサイトで盛んに広告を出稿してセールスプロモーションを行い、魅力的なオファーで購買者を呼び込もうとします。しかし、どれくらいの広告が意図したオーディエンスに見られているのでしょうか。広告不正の防止を専門とする企業であるPixalate社によれば、15大広告市場における2018年第3四半期のプログラマティック広告の出稿量について、米国で配信されたプログラマティック広告の17%は無効(IVT: Invalid Traffic、無効トラフィック)であったと見積もっています。これは、インドの34%、インドネシアの30%、オーストラリアの20%に次ぐ四番目に高いIVT率です。特筆すべきは、アプリ内の動画広告でIVT率が増加し続けている点です。スマートフォンではアプリ内の22%、タブレットは19%が無効トラフィックとなっています。
大規模な広告主の中には、広告不正でマーケティング予算が無駄になることを恐れるあまり、デジタル広告に割り当てる額の削減を始めた企業もあります。2017年には、世界最大の広告主で消費財メーカーの巨人、P&G社が1億ドルもデジタル広告支出を削減し、広告を掲載するサイトを900程度にまでに絞りました。同じ年に、世界第2位の広告主であるユニリーバ社は、広告不正による損害を抑えるため、デジタル広告予算を59%カットしています。また、銀行大手のJPモルガン・チェースも、2017年に広告の掲載先を40万サイトから5千サイトにまで減らしました(ただし、数か月後に1万サイトまで増加)。
同行は、掲載先の絞り込みを行っても各種のマーケティングパフォーマンス指標に影響はなかったと述べていて、これまで見てきたように、不正がはびこっている、手当たり次第のプログラマティック広告よりも、オーディエンスの質の方が重要な役割を果たしていることを明確に示しています。そのようなわけで、大手の広告主がRTB(リアルタイム入札)チャネルに投入する予算を減らして、マーケティング支出に対する効果をもっと測定し、効率化しようとするのは当然です。
激しさを増すマーケティング不正との戦い
広告不正によってプログラマティック広告のエコシステムに対する信頼が損なわれたことを受け、透明性の確保と信頼の回復を実現するため、業界各社が団結し、さまざまな方法を打ち出しています。その1つが、Interactive Advertising Bureau(IAB)による「Ads.txt」イニシアチブです。しかしながら、ウォールストリートジャーナルの報道にあるように、不正利用者がAds.txtの仕組みを悪用することも可能です。
そこで業界団体は、Ads.certやadCOM、Ad Management APIなど、より厳格な認証手順を提唱しています。これはらはいずれも新たに制定されたOpenRTB 3.0技術仕様に含まれています。現在、Ads.certはベータテスト中で、認定販売者が販売するインベントリーの正当性を検証するために、入札要求に暗号化された署名を用います。これにより、マーケターは、自身が出稿する広告のインプレッションの品質を把握しやすくなります。マーケティング不正を封じるもう1つのイニシアチブはTAGです。TAGはデジタル広告のサプライチェーンに関わる企業の連携による業界コンソーシアムで、不正の撲滅と透明性の確立を目的としています。
まとめ
第一に、サイバー犯罪者にとってマーケティング不正は非常にうまみがあり、すぐにはなくなりません。第二に、広告不正を撲滅するために業界団体が提唱している各種の技術的ソリューションは、いまだ初期の段階にあります。第三に、これらのソリューションが正確かつ信頼性の高い方法で、特にボットによるマーケティング不正を完全に排除できるという保証はありません。
パブリッシャーや広告主は、これらの点を念頭に置きつつ、専用のボット・マネジメント・ソリューションを採用することをお勧めします。これらのソリューションは、不正な広告やインプレッションを防ぐ以外に、悪意のあるボットが自社のウェブサイトやアプリケーション、APIにもたらす重大な脅威に対する防御として、リアルタイムで機能します。
また、これらの専用ソリューションには、GoogleやAdobeなど、主要なアナリティクスダッシュボードと簡単に連携できるという利点もあります。(Googleアナリティクスは、既知のボットしかフィルタリングできず、生身の人間のように振る舞う、最新の巧妙なボットには対応していませんので注意が必要です。)クリーンな分析がマーケティングにもたらす利点については、弊社のサクセスストーリー「ボットの影響がないマーケティングレポートとアナリティクスを実現した7Pixel」(英語)を参照してください。
注:本記事は、Multichannel Merchantで最初に掲載されました。